写真の中のあなた
某散歩の雑誌に行きつけのお店が少しだけ写っている。カウンターにカーキ色の上着の男性が立っている。
顔は写っていないが背格好からして、おそらくはTさんなのだけれど、昨年の暮れごろから姿を見せなくなってしまった。伝え聞いた話では、Tさんと同業でプライベートでも仲良くしていた人が彼のアパートに行ってみたところ、すでに引き払われていたらしい。
やや喧嘩っ早いところもあり、他のお客さんにからむようなときや、ママと言い合いになってしまうときもあったけれど、基本的にはいい人で、建設系の仕事をしていた。
バブル期にやった海外の仕事の話や、現場の話や建物の工法の話、自分の半生の話など色んなことを聞いた。九州の出身で訛りが残る話し方に親しみを持っていた。
頻繁に通っていたのにふいに来なくなってしまう人も、転勤や転職でなかなか来られなくなってしまう人もいる。
ただの同じ店の客同士であり、何も引き留めるものも確実なこともないのだけれど、同じ時間を過ごした人が急にいなくなってしまったり、会えなくなってしまうのは、それなりにさみしい。
なるべく幸せに暮らしていてほしいと思う。